普通解雇
解雇には、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の3種類があります。 ここでは、まず普通解雇を扱います。
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突然、「クビだ!」と言われました。従うしかないのでしょうか?
解雇(=クビ)とは、使用者による一方的な労働契約の解約です。労働者の承諾は必要ありません。しかし、無制限に行えるわけではなく、いくつかの大きな制約が課されています。
1.法令による制限
以下に該当する場合、解雇は法律で禁止されています。
- 労働基準法
- 第19条 業務上の傷病による休業期間およびその後30日間の解雇
- 第19条 産前産後の休業期間およびその後30日間の解雇
- 第3条 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇
- 第104条 労働基準監督署に申告をしたことを理由とする解雇
- 男女雇用機会均等法
- 第6条 性別を理由とする解雇
- 第9条 女性が婚姻、妊娠、出産したこと、産前産後の休業をしたことを理由とする解雇
- 育児・介護休業法
- 第10条 育児休業の申出をしたこと、または育児休業を取得したことを理由とする解雇
- 第16条 介護休業の申出をしたこと、または介護休業を取得したことを理由とする解雇を理由とする解雇
- 労働組合法
- 第7条 労働組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたこと等を理由とする解雇
- パートタイム労働法
- 第8条 通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者について、パートタイム労働者であることを理由とする解雇
- 公益通報者保護法
- 第3条 公益通報をしたことを理由とする解雇
2.解雇権の濫用
(1)に該当しない場合でも、権利の濫用に当たる解雇は無効となります。これは、「解雇権濫用法理」と呼ばれるもので、高度成長期以降の終身雇用慣行を背景に、最高裁の判例によって確立されました。その後、この判例法理は、平成15年の労働基準法改正によって法律上明文化され、さらに労働契約法が制定されたことにより、現在では同法に移行しています。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」 (労働契約法第16条)というものです。
解雇には、「客観的に合理的な理由」が必要です。その具体例としては、労働者の能力不足・適格性欠如、労務提供不能、労働者の非違行為・企業秩序違反、経営上の必要性(リストラ)等があげられます。
また、「客観的に合理的な理由」があったとしても常に解雇できるというわけではなく、さらに、具体的な事情の下で、解雇することが「社会通念上相当であると認められ」るか、過酷にすぎないかが問われます。
3.就業規則への解雇事由の記載義務
平成15年の労働基準法改正によって、就業規則に解雇事由を具体的に列挙することが義務づけられました。つまり、会社ごとに「客観的に合理的な理由」に該当するケースをできるかぎり詳細に定めておかねばなりません。これは、労使当事者間において、解雇についての事前の予測可能性を高めるためです。解雇事由の記載漏れや不明確な記載等、不適切な就業規則は、トラブルの原因となります。
4.解雇予告義務
解雇を行う場合には、少なくとも30日前に予告するか、または30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うかのいずれかの手続が必要です。解雇予告の日数は、平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができます。
ただし、①天災事変等やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合、②解雇が労働者の責に帰すべき事由に基づく場合は、それについて所轄労働基準監督署長の認定を受けたときには、上記の手続は不要となります。
5.解雇理由証明書の交付
平成15年の労働基準法改正により、労働者が解雇予告期間中に請求を行った場合、解雇の理由を記載した証明書(解雇理由証明書)を速やかに交付しなければならなくなりました。この証明書には、解雇の根拠となった就業規則の条文・事実関係を具体的に記入する必要があります。解雇の「合理的な理由」を判断する場合に、重要な材料となるものです。